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ピーター・ズントー 聖ベネディクト教会

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Architecture / 建築

スイス東部グラウビュンデン州にある小さな村スムヴィッツ(Sumvitg)。
ここに現代建築史に刻まれる祈りの教会があります。

その名は聖ベネディクト教会。
1984年の雪崩れで崩壊した旧礼拝堂に代わり、1988年に新しく竣工したこの教会は、
建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞したスイスの建築家ピーター・ズントーが設計しました。

この聖ベネディクト教会はピーター・ズントーの出世作として世に知られています。
なぜ出世作と言われているのか。理由の一つは、当時の時代背景です。

聖ベネディクト教会が発表される前の1980年代から90年代初頭の建築は、派手で装飾的なポストモダン建築が流行した時代でした。例えば、日本では丹下健三の東京都庁、磯崎新の水戸芸術館、海外では、ニューヨークにあるフィリップ・ジョンソンのAT&Tビルディングなどがポストモダン建築に該当します。

一方で、ピーター・ズントーの聖ベネディクト教会はその対極で、派手な記号を排除し、寡黙でストイックな建築でした。そのため、世界中の専門誌がこぞって特集を組まれ、一躍有名となりました。

そんな聖ベネディクト教会について、今回は、①行き方、②ピーター・ズントーについて、③建築の特徴、④実際に訪れた感想をまとめてみました。

なお、聖ベネディクト教会は普段は管理人がおらず自由に見学が可能(24時間)となっていますが、
天候やイベント、夜間は閉じている可能性もあります。
また、節度を持って見学をしましょう。

※念の為、確認する場合は、地元の観光窓口であるスンヴィッツ観光局(Sumvitg Turissem)に問い合わせしてみてください。

①行き方

聖ベネディクト教会までの行き方について、
スイス最大の都市であり、交通の要所でもあるチューリッヒを起点として紹介します。

①チューリッヒ中央駅からクール駅へ(約1時間15分)

②クール駅からレーティッシュ鉄道でSumvitg-Cumpadials駅へ(約1時間)
ディセンティス(Disentis/Mustér)方面行きの電車に乗りましょう。

〜失敗談〜
Sumvitg-Cumpadials駅は無人駅です。
この区間の無人駅に降りる場合には、電車内にある降車ボタンを押す必要があります。
私はそれに気づかずに、駅を通過し、終点のDisentis/Mustér駅まで行きました。
折り返しの電車に乗って、Sumvitg-Cumpadials駅へ向かいました。

降りる際は降車ボタンを忘れずに!!

③Sumvitg-Cumpadials駅から聖ベネディクト教会まで(徒歩45分〜60分)
距離にすると3kmですが、高低差が300mあり、ずっと緩やかな坂が続きます。
蛇行しながらの登って行くので、目的地に近づいては離れて行くの繰り返しとなっており、
タフさが必要な道となっています。

②ピーター・ズントーについて

ピーター・ズントーは、1943年にバーゼルで生まれたスイスを代表する建築家です。
家具製作を生業とする家庭で育ち、父親のもとで家具製作工としての職業教育を受けていました。

1958年から1962年にバーゼルの造形学校で室内建築とデザインを学び、
1963年から67年にニューヨークのプラットインスティテュートでインダストリアル・デザインを学んだ後、
1967年にグラウビュンデン州の歴史的建造物保存局の建築家を務め、
1979年にハルデンシュタインで自身の設計事務所を設立し、現在に至ります。

代表作は温浴施設のテルメ・ヴァルス、ケルン大司教区美術館、ローマ遺跡のためのシェルターなどがあります。

建築的特徴としましては、周辺の自然と調和した独自のデザインを持っており、
石、木、コンクリート、金属といった素材の素朴な美しさや手触りを大事にしています。

素材へのこだわりは建築に留まらず、家具やペッパーミルにも現れています。

また、ズントーの著書「Thinking Architecture」より、
建築を単なる「形態や構造」としてではなく、
「人間の五感に訴えかける生々しい体験」として捉えているので、
写真や作品集で満足せず、実際に訪れ、素材の手触りや静寂さを体験することをお勧めします。

③建築の特徴

聖ベネディクト教会の建築的特徴について、外観、内観、教会回りについては以下となります。

外観

聖ベネディクト教会の外壁

スイスの伝統的な木造建築技法の応用で、小さなカラマツの板を一枚ずつ重ねて外壁を覆っています。
魚のウロコのようだという人もいますが、私はこの見た目を勝手に「松ぼっくり」と呼んでいます。
また、この外壁は経年変化で白化している箇所があり、味のある雰囲気を醸し出しています。

コンクリートの階段、鉄の手すり、木のドア、いずれも素朴な素材で構成されています。

内観

一般的なヨーロッパの教会といえば、石造りで、ステンドガラスが嵌め込まれ、閉鎖的で特別な場所というイメージがあると思います。外から中を見渡すことができない仄暗い空間となっていますが、そこを照らすステンドガラスの光によって、特別感が与えられ、祈りに集中できる場所を提供しています。

教会に必要な機能は、「外から観られないこと」と、「光の演出」であり、
現代でもこの機能は変わらないと思います。

この聖ベネディクト教会では、
回りの山々が見えない位置にハイサイド・ライト(高窓)を設け、
光だけが入ってくるようになっており(=外から観られない)、

室内の壁の色が銀色であることで、外から入ってくる自然光を柔らかく反射させています(=光の演出)。

加えて、外から入ってくる光は、直線に照らされ、どこか希望を与えてくれるような気もします(=光の演出)

派手さがなく簡素な室内ですが、祈りに集中ができ、普段の生活とは少し離れた場所を与えてくれる空間となっています。

教会回り

鐘楼

木造でできた鐘楼が教会の横に立っています。
「天国への梯子」をイメージして作られていると言われています。

水飲み場

スイスでよく見かける水飲み場。
真鍮の吐水口と木をくり抜いて作られたシンク。
この水飲み場も建築要素として、重要な役割を果たしています。

④実際に訪れてみた感想

聖ベネディクト教会までの道のり

先ずは、教会までの道がなかなか大変であったことです。蛇行しながら登っていく、目的地に近づいては、離れての繰り返し。気が遠くなってきます。また高低差が300mあるので、時折、空気が薄く感じました。

辛さもありましたが、普段観ることがない牛達の草を食べている様子や、遠くの山々の壮大さに、まるでハイキングをしているような気分にもなりました。


駅から歩き続けること40分。旧礼拝堂の跡地が現れました。

1984年の雪崩で崩壊したこの礼拝堂の前にはロープが張ってあり、
中に入ることができませんが、遠くから眺めることができます。

1522年に建てられた礼拝堂のようですが、
現在では、まるで紀元前の遺跡のような雰囲気が出ていました。

礼拝堂を過ぎたあたりで、地図を確認し、まもなく目的地の聖ベネディクト教会に着くのがわかった途端、
辛かった道のりが楽になってきました。

聖ベネディクト教会の外壁と屋根について

旧礼拝堂を通過して数分。聖ベネディクト教会に到着後、
すぐに教会には入らずに回りを観察しました。
観察をする中で、
この教会は、上から観ると船の形をしており、外壁は魚のウロコのようであることから、

もしかしたら海をイメージしているのかと頭を過らせました。
しかし、ここはスイスの山の中。海ではなく湖ではないだろうか?
いやいや、山に聳え立っているので、船ではなく葉を表しており、
外壁は松ぼっくりではないだろうか?

湖と山どちらなのだろうか?はたまた別のものかもしれない。
そんな答えがあるわけでもなく、自問自答していると足元に松ぼっくりが。

ズントーの建築は風土を大事にしているので、
教会の外壁は松ぼっくりではないかという私の勝手なイメージは、
あながち間違ってない気もしました。

教会とその回りについて

本題の聖ベネディクト教会について、印象に残ったことと言えば、

教会に入る時のずっしりしたドアの重み。
入った瞬間に感じた凛とした静寂さと反響する足音。
そして、緊張感の中に差し込む温かな光。
教会から少し登ったところにある水飲み場の水がひんやりしたこと。

派手さはないけれど、五感を通じて、その一つ一つが、日頃、味わえない特別な時間となり、
感動とは異なる心の安らぎといえばいいのでしょうか、穏やかな気持ちにもさせてくれました。
簡素な造りの教会だけど、ごまかしのない美しさがそこにありました。

この体験は、訪れてからだいぶ経った今でも、鮮明に思い出すことができます。
建築に興味ない方にとって、なんてことのない教会ですが、
私にとってはかけがえのない時間になったと実感しています。

ピーター・ズントーの作品に興味がある方、ちょっと変わった旅行をしたい方の参考になればと思っています。ぜひ、訪れてみてはいかがでしょうか?

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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