フィンランドを代表する建築家アルヴァ・アアルトの自邸。
1934年頃にヘルシンキ郊外の土地を購入し、1936年8月に建物完成。
家族と共に生活をしていました。
完成から1955年までは住宅の中にスタジオ(アトリエ)があり、
そこで設計を行なっていました。
※1955年以降は自邸から徒歩7分程のところにあるスタジオにて設計を行なっています。
現在はアアルト自邸、スタジオともアアルト財団が保有しており、博物館として維持されています。
アアルト自邸
見学方法(2024年現在)
見学するには、こちらのサイトにて予約が必要です。
期間:通年
開館日:火曜〜日曜日
休館日:月曜日 ※臨時休館日もあります。 要HPをチェック
時間:火曜〜金曜 12時〜13時、13時〜14時、14時〜15時、16時〜17時、(※17時〜18時)
土曜、日曜 12時〜13時、13時〜14時、15時〜16時、16時〜17時、(※17時〜18時)
※6月〜8月末のみ 17時〜18時の回あり
料金:一般:30ユーロ
学生、高齢者:15ユーロ
※オンラインにてクレジット決済
ガイドツアーは英語となっています。
1時間のうち、
30〜40分くらいがガイドツアー
残り時間が各自自由見学となります
当日、アアルト自邸の入口前にスタッフの方が現れますので、
予約済みであれば、名前を告げ、入場できます。
※念の為、支払い完了のメールを印刷または、スマホ画面を提示する準備をすることをオススメします。
行き方
ヘルシンキ中央駅から
ヘルシンキの玄関口ヘルシンキ中央駅からの行き方を紹介したいと思います。
ヘルシンキ中央駅の目の前にあるトラム駅「Lasipalatsi」へ。
4番トラム(Munkkiniemi via Töölö)行きのトラムに乗車し、
Laajalahden aukio駅へ。
Laajalahden aukio駅からアアルト自邸まで
アアルト自邸について
アアルトはコルビジェやミースを代表するモダニズム建築の時代に活躍した建築家の一人です。
コルビジェのサヴォア邸やミースのファンズワース邸といったモダニズムの現代建築はどちらかというとコンクリート、ガラス、鉄といった材料を用いた無機質で周辺環境と切り離した独立した存在を放っています。言うなれば、森の中に突如現れた異質な建物という感じです笑
その一方で、アアルトのモダニズムは外壁や内部に木材を使用していることや、庭・植栽、石垣を取り入れていることから、周辺環境と切り離さず、自然との調和がとれた住宅となっています。
見どころ
図面
リビング
窓について
夏は大開口の木製窓による庭と樹木の眺めが最高に気持ちがいいです。
夏はいいかもしれないけど、これだけ大きい窓を設けると冬は冷気が入ってくる恐れがありますよね。
特にものすごく寒いフィンランドの冬なら、より一層室内が冷えるはずです。
しかし、アアルトは窓ガラスを複層ガラス(3重ガラス)にすることで断熱性を向上させ、
冬でも耐えれるようにしています。
現在では、日本でも複層ガラスのサッシ(窓)が普及していますが、1930年代にこの技術を用いていました。
ただ、この眺めが最高な大開口の木製窓を日本で真似をすると痛い目に遭います。
一つ目は、そもそも日本とフィンランドでは夏の太陽高度が違うからです。
日本の夏は太陽高度が高いです。
太陽高度が高ければ高いほど、単位面積あたりの光の量が多くなり、温める強さが強くなります。なので、大開口の窓があるとそのまま日射が入り部屋が暑くなります。
一方、フィンランドは夏の太陽高度は低いので、単位面積あたりの光の量は少なく、温める強さは強くありません。日射を取り入れても部屋が暑くなりにくいのです。
二つ目は、日本は雨が多いので、木製の窓だと雨水で木が痛んでしまうからです。
これらの直射日光と雨水を避けるために窓の上に庇を設ければ、木製の大開口窓は実現できます。
しかし、庇で光を遮るので、アアルト自邸の窓のような光が入ってきません。
要は、アアルトはフィンランドの風土を前提に、
いかにフィンランドの短い夏に部屋を明るくするかを考えた結果のデザインなので、
それをそのまま風土の異なる日本に持ってきても合うわけがないということです。
隣の芝生は青く見えると言いますか、真似したくなります。
だけれど、日本には日本の良さ、条件があるので、
それを踏まえデザインしていくことが大切かなと私は思います。
そのためにアアルト自邸から学べることは多くあるので、
現地に行って見学をオススメします笑
※余談ですが、私の訪れた日は木漏れ日を感じる素晴らしい日でした。
ちなみに「木漏れ日」は日本人独自の感性により生まれた言葉です。
アアルトも言葉には表せないけど、もしかしたら木漏れ日の感覚を持っていたのかもしれません。
また、私が見学した日は天気がよく快晴で、ガイドさんもこんな明るい日に見学できるのは滅多にないと言っていました。
家具、照明、建具について
家具には、
上の写真左手前にある「ティートロリー」、中央右にあるゼブラ柄の生地の「アームチェア タンク」などがあります。
照明には、
上の写真右手前にある「BEEHIVE(ビーハイブ)」。名前の通り、蜂の巣のフォルムをしています。
建具には、
リビングとスタジオの間に引き戸(スライディングドア)があります。
実は引き戸というのは、日本建築ならではの扉です。
アアルトは、日本へ訪れたことはありませんが、何かの本などで知ったのでしょう。
引き戸を自邸に採用しています。
しかし、この引き戸、日本では考えられないほど幅と高さがあります。
同じサイズの引き戸を日本で制作すると湿気で反れたりして、
建て付けが上手くいかない可能性が出てきそうです。
ちなみに前述の「ティートロリー」も、日本の優れた木工技術から着想を得てデザインされています。
アアルトは日本の建築を参考にし、それを自分のデザインに落とし込んでいたのです。
ダイニング
窓の手前にはラジエーターを設け、その上に植木のカウンターがあります。
また、ダイニングの照明やテーブルもアアルトがデザインしています。
このようにフィンランドの厳しい冬を暖かく過ごすための工夫が施されています。
それから、アアルトは家政婦を雇っていました。
家政婦はキッチンで調理をし、
完成した料理をキッチンとダイニングの間にあるカウンターに置いていました。
このカウンターは、お互いの視線が合わないように、扉がついています。
まさにプライバシーを守るデザインです。
このプライバシーを守るデザインは、
ルイス・カーンが提唱した「サーバント・スペース」と「サーブド・スペース」が発表される前にすでにアアルトは行っていたのです。
サーバント・スペース…サポートする機能空間(キッチン、収納、トイレ、浴室など)
サーブド・スペース…サポートされる機能空間(リビング、ダイニング、寝室など)
アアルト自邸は、自然と調和のとれた住宅ですが、私(プライベート)と公(パブリック)を分離しています。
そもそもアアルトは人見知りで寡黙な人ではなく、コミュニケーション能力が高く、楽観的でユーモアのある人だったそうです。2階にゲストルームもありますしね笑
にも関わらず、プライベートとパブリックを分けているのはなぜか?
この理由はおそらく、フィンランドの国民性にあるのではと私は推測しています。
フィンランド人はパーソナルスペースが広く、人との距離をとる国民性と言われています。
たとえば、バス停で待っている人の写真が有名です笑
※私の体験では、そこまでバス停で人々が離れている感じはありませんでした。
なので、アアルトは家政婦さんへの気遣いで、プライベートとパブリックを分離したのかもしれません。
自然に寄り添うけど、色んな人とコミュニケーションをとったり、時には気遣いだったりとバランス感覚が素晴らしいこそ、このようなデザインが成せたのかもしれません。
アトリエ
コーナー窓
コーナー窓は2方向を眺めることができるので、視界が広くなり、屋外と屋内のつながり(意味)が重要となってきます。つまり、屋内から外をどのように魅せるかがポイントになります。
仮に2方向とも同じような見え方をすると、面白くないというか、わざわざ2方向見えるコーナー窓にする必要がなくなってしまう気がします。
そこで、アアルトは、
南面の窓側にシンボルツリー(樹)を植えています。
樹があることで、敷地外からの視線を遮ることができ、プライバシーを保っています。
また、葉と葉の隙間から青空が見えるので、視線が抜けて開放感があります。
一方で、東面(上の写真の右手)には、隣地との間に壁があります。
この壁は隣地からの視線を遮るためのものですが、その機能だけではありません。
壁に映る葉と枝の影が風で揺らぐのを眺めると自然を感じられ、心が安らぎます。
こんな環境の中で夏場の昼間に仕事をするのは、さぞかし気持ちよかったかと思います。
高窓(ハイサイドライト)
短い夏の間、より長く自然の光を採り入れるために西面に高窓を設けています。
日本では、西日は嫌われていますが、フィンランドは太陽高度が低いので、
単位面積あたりの光の量は少なく、温める強さが強くないため、
西に窓を配置しても、そこまで気にしなくてもいいのです。
私の体験談ですが、高窓を眺める時の首を上向きにし、見上げる動作が、
教会のステンドガラスを眺めている時の感覚と重なり、包み込んでくれると言いますか、
どこか神秘的な気持ちになりました。
アアルト自邸にて、改めて高窓の隠れた機能を垣間見ることができました。
まとめ
アアルト自邸をまとめると
・フィンランドの風土を考えた上でのデザイン
・短い夏、厳しい冬を豊かに過ごすための工夫
・プライバシーと気遣い
・大らかさ、楽観的な部分もある
これらがバランスよく盛り込まれているため、
家の中が全体的に馴染んでいき、違和感のない素敵な居場所となっているような気がしました。
まだまだアアルト自邸について伝えたいことがありますが、今回はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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